東南アジアは気候変動の影響に応えられるのか
サロージ・シーサイ / Saroj Srisai(タイ)
ASEAN事務局環境課 課長 / 2017年度ALFPフェロー
気候変動は東南アジア地域で今後何十年にもわたって大きな脅威となることが分かっている。海岸線が長く、河川や海に囲まれた国々は気候変動にとりわけ弱く、海岸線の短い国々より大きな影響を受ける可能性がある。この地域で他国と比べて特に脆弱であると予想されるのは、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムである。
東南アジア諸国はほとんどが未だ発展途上で、その大半が農業を基盤とする経済であるため、気候変動は直接的あるいは間接的に経済成長に影響を及ぼす。アジア開発銀行の調べでは、21世紀末には気候変動によって成長率が6.7%影響を受けるという。こうした経済損失の主な理由は、海面上昇、作物の収穫高や農業に影響する水不足、インフラやプランテーションに間違いなく被害を与える洪水などである。総じて気候変動は食料供給や経済の繁栄にとって大きな脅威となり、その結果、東南アジア諸国のあらゆる発展と成長の妨げとなるだろう。こうした損失を受けて、人間や生き物の行動や生活パターンも必ず影響を受け、経済ばかりか社会面、政治面など、さまざまな次元で変化が予想される。その影響は間違いなく甚大なものになるだろう。
経済面で言えば、2100年にはGDPの2.2%が失われると思われる。しかしこの数字は市場とGDPだけを考慮した経済的懸念に過ぎず、もしも健康という要素を加えるならばGDPへの影響は5.7%に増え、生物多様性の損失を加えると6.7%に増える。さらに気象関連の災害による損失を含めれば、この数字は7.5%にまで上昇する。以上の要素をすべてまとめると、気候変動による今世紀末のGDP損失は、全世界のGDPの2.6%になると予測されている気候変動コストを遥かに上回る。
21世紀末までの平均気温は、地球温暖化に何ら対処がなされない場合、1990年レベルと比べて4.8℃上昇すると推定されている。東南アジア諸国は降雨量の減少に苦しむと思われ、その結果、干ばつが悪化し、森林火災が増え、熱帯性低気圧が強度を増し、洪水はさらに悪化する。こういう自然災害によって数百万の人々が移動を強いられ、ホームレスになる恐れもある。さらに、この地方の海岸線を自然災害から守っている自然の楯であるマングローブの林約965平方マイルを破壊するだろう。
気候変動によって社会構造や人々の行動にも影響が及ぶ恐れがある。多くの住民が家を追われるかもしれず、ひどい自然災害の場合はとりわけ、日々の暮らしや活動への影響は甚大だ。だが緩やかな気温上昇によっても正常な生活や活動は影響を受ける。その著しい例は、湿度、降雨量、気温のレベルに左右される作物の成長パターン、収穫、生産高である。年間通じて季節の正常な循環が狂うのが当たり前になり、それがひいては教育現場の学期、夏休みの期間のほか、自然が売りの観光地も場所によってはシーズン動向が左右される。
東南アジア地域の政治家の大半は環境の観点からしか気候変動の問題を見ないが、これは間違っている。ほかにも考慮しなければならない多くの側面があり、そのうち重要なのは失業と貧困の二つである。気候の影響によって、人々は簡単に数千人単位で失業し、貧困ライン以下の生活に追い込まれる。卑近な例が、数千の村民が暮らしを立てている違法伐採と椰子油プランテーションである。違法伐採が続き、それに森林破壊が加わると、この地域の二酸化炭素排出量の75%を占めることになる。今この問題を解決する適切な手段を講じなければ、こうした村人全員が気候変動の影響を必ず受けるだろう。人々は職を失い、収入の道は閉ざされるにちがいない。
ASEAN技術作業部会の気候変動に関する包括的研究は、気候変動の影響を緩和するために、本格的かつ早急に以下の方策をとるよう勧告している。すなわち灌漑ネットワーク、洪水管理システム、早期警報システムの構築と、沿岸部マングローブ林の保護である。この研究はまた、もしもエネルギー効率の良いビルや車や公共交通に投資すれば、東南アジア諸国は2025年までにエネルギー関連の二酸化炭素排出量の40%を削減できるとも言っている。再生可能エネルギーに向けた燃料混合の多様化を進めれば、発電に従来の化石燃料を使うよりも、さらに40%の削減が可能になる。
国際協力も成功の鍵だ。気候変動はまさに国境のない問題であり、全地球的関心事である。アメリカ、中国、インドなどの経済大国と比べると、ASEAN諸国の二酸化炭素排出量レベルは微々たるものだが、各国は、とりわけ先進国や相対的に豊かな国は、宿願の低炭素社会を目指す努力に対して十分な経済支援をすべきである。2015年12月に採択された気候変動パリ協定のような国際協定が、排出量削減を目指してしっかり協働していこうとする世界の活力の証であることにまちがいはない。気候変動はもはや単一の巨大な排出大国の問題ではなく、地域協力の問題でもなく、手遅れになる前に直ちに声を上げる必要のある全地球的問題なのである。
※本記事の内容や意見は著者個人の見解です。